重症低血糖治療薬バクスミー点鼻粉末剤3mgの注意点や使い方

この前入院患者さんでインスリンを導入した患者さんが居て、低血糖で倒れちゃったんだ…入院していたから看護師さんにブドウ糖の注射を打ってもらって何とか大丈夫だったんだけど。

今後退院して外来通院なった際に、重症の低血糖になったらどういう風に対応するように説明しようかな？

低血糖で意識を失ったら経口摂取でブドウ糖摂取も出来ないし、看護師さんが居なければブドウ糖の注射もできないしな…

確かに低血糖は怖いよね。軽度の低血糖であれば動悸や冷や汗等だけど、重症となると低血糖性昏睡になる場合もある。

本人も心配だけど、付き添いの家族も低血糖時の対応方法については理解しておく必要があるよね。

そんな時に使える薬剤が１つある！

低血糖性昏睡等に経口よりブドウ糖を摂取できない場合として、バクスミー点鼻粉末剤が今後発売される予定なんだ！

低血糖時の点鼻薬？鼻からブドウ糖を入れるんですか？

ブドウ糖ではないんだよ。
では今回はバクスミー点鼻粉末剤の用法や注意点、作用機序等を説明するよ！

糖尿病治療薬を使用している場合、重大な副作用として低血糖があります。
薬剤師として低血糖の症状や対処方法については十分説明する義務がある。

今回は注射剤以外の低血糖治療薬としては初の選択肢となるグルカゴン点鼻粉末剤である『バクスミー点鼻粉末剤3mg』について解説。

バクスミー点鼻粉末剤は注射剤のように充填する手間も無く、看護師さんや患者家族も簡単に使用できる低血糖治療薬となっています。

注）2020年3月に製造販売承認され、現時点では発売されておりません。

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バクスミー点鼻粉末剤3mgとは？

バクスミー点鼻粉末剤は注射剤以外の低血糖治療薬としては初の選択肢であるグルカゴン点鼻粉末剤。

保管方法は室温(1~ 30°C)で持ち運びができる1回使い切りの製剤で、看護者(家族等)が投与することにより重症低血糖の救急処置を行うことができる薬になります。

重症低血糖は主にインスリン治療中の糖尿病患者が陥りやすく、家族や看護師等の他者の援助が必要になるので点鼻薬は非常に使いやすいデバイスですね。

バクスミー点鼻粉末剤は鼻粘膜から吸収されるため、重症低血糖に陥り意識を失っている患者に対しても使用可能であり、また薬剤は点鼻容器に充填されており、調製作業が不要なため緊急時に迅速に使用できるのがメリットになります。

低血糖はどんな症状が出るの？

では低血糖はどのような症状が出るのでしょうか？

一般的に低血糖は60mg/dL以下を指します。
しかし低血糖の症状の頻度は個人差があるので、必ずしも血糖が60mg/dL以下で起きるわけじゃないので注意してが必要です。

軽度の低血糖では冷や汗やふるえ等を自覚する方が多いと思いますが、重症となると意識を失って昏睡となり、最悪亡くなる方もいます。

薬剤師として低血糖症状と対処方法（ブドウ糖服用等）を指導するのはとても重要な事と言えるでしょう。

低血糖時の対応方法？

では低血糖時の対応は一般的にはどのような方法が正しいのでしょうか？

動悸，発汗，脱力，意識レベルの低下などの低血糖症状があり，少なくとも血糖値が60mg／dL以下の場合，低血糖と診断し対応する。

可能であれば，まず血糖自己測定器などで血糖値を確認する。
経口摂取が可能な場合はブドウ糖を中心とした糖質を摂取させるが，ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅延することもある。
αグルコシダーゼ阻害薬服用中の患者では必ずブドウ糖を摂取させる。
経口摂取が不可能な場合は，歯肉に糖質を塗り付ける処置やグルカゴン筋注などの処置を行い，速やかに医療機関へ搬送する。

医療機関で対応する際は，血糖値の確認とともにグルコースの静脈内投与を行い，症状の回復と血糖値の上昇を確認する。

意識レベルが低下するような重症低血糖では応急処置で低血糖症状がいったん回復しても，再発や遷延が起きることもあるため，医療機関での治療を受けるとともに注意深い経過観察と再発予防のための処置を要する。
（旧版）科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン改訂第2版より抜粋

軽度の低血糖で意識が清明であれば、経口よりブドウ糖摂取で良いですが、意識を失うぐらいの重傷であればブドウ糖静脈注射を使用します。

その際可能であればグルカゴンの筋肉注射を使用すると思います。

しかしグルカゴン筋肉注射は自宅では不可能でしたが、今回発売されるバクスミー点鼻粉末剤は自宅に居ながらグルカゴンを使用する事ができるので糖尿病患者さんではお守り代わりに持っておくべき薬になるかもしれません。

バクスミー点鼻粉末剤3mgの作用機序は？

ではバクスミー点鼻粉末剤の作用機序を見てみましょう。

グルカゴンは肝臓のグルカゴン受容体に結合して活性化し、肝臓に蓄積されたグリコーゲンをグルコースに分解して血液中に放出させることにより血糖値を上昇させる。
バクスミー点鼻粉末剤3mg添付文書より抜粋

グルカゴンは体内にあるホルモンです。

私達は肝臓にグリコーゲンを貯める事で、もし飢餓状態になって絶食になってもある程度は生きる事ができます。

グルカゴンはそのグリコーゲンを分解する事でグルコースを産み出し、生体内で活用されていく訳です。

ではグリコーゲンが無くなったらどうなるのか？

次のプロセスとして脂肪を燃焼しエネルギーに変えます。
脂肪は分解するとケトン体になるので、尿中からケトン体が検出される場合は飢餓状態の可能性があります。

グルカゴンとは？

ではグルカゴンはどのようなホルモンなのでしょう？
私も学生以来に調べ直してみました笑

グルカゴンとは29アミノ酸残基からなるペプチドホルモンの一種であり、タンパク質およびアミノ酸の代謝に重要な機能を持つ。
インスリンとともに血糖値の制御に関係する重要なホルモンの一つである。

インスリンは血糖値を低下させるが、グルカゴンはそれとは逆に血糖値を上昇させるホルモンの一つであり、人体が低血糖になるのを防ぐため、肝細胞に働きかけることでグリコーゲンを分解するよう信号を送り、血糖値の上昇を促進する（血糖値を低下させるホルモンはインスリンのみであるが、血糖値を上昇させるホルモンはグルカゴン以外にも複数備わっている）

主に膵臓のランゲルハンス島のA細胞(α細胞)で生合成・分泌されるほかに、消化管からも分泌される。
Wikipedia「グルカゴン」より抜粋

グルカゴンとインスリンが良いバランスを保つ事で、私たちの血糖はコントロールされているんですね。

ちなみに血糖を下げるホルモンはインスリンのみですが、血糖を上げるホルモンはグルカゴンだけではないです。

甲状腺ホルモンとソマトスタチンも血糖を上げる作用があると知られています（糖尿病患者のスクリーニングで甲状腺ホルモンを測定する理由はコレ）

脳の唯一の栄養分はブドウ糖、もしグルカゴンが分泌されなかったら他のホルモンで血糖を保つ機能が私達には備わっているんです。

人間の体って本当に緻密に作られていますよね。

バクスミー点鼻粉末剤3mgの用法・用量

ではバクスミー点鼻粉末剤の用法・用量を説明します。

通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与する。
バクスミー点鼻粉末剤3mg添付文書より抜粋

バクスミー点鼻粉末剤は1回使いっきりの製剤です。
1本あたりグルカゴン3mgを含有しているので、1回点鼻して終了です。

用法に適宜増減は記載されていないので注意が必要！
添付文書の注意事項に下記内容が記載されています。

低血糖を生じた患者に本剤を投与しても、意識レベルの低下等の低血糖症状が改善しない場合は、直ちに、ブドウ糖等を静脈内投与するなど適切な処置を行うこと。

本剤の繰り返し投与によるグルコース濃度上昇作用の増大は認められていないため、本剤又は他のグルカゴン製剤の追加投与は行わないこと。なお、回復した場合でも糖質投与を行うことが望ましい
バクスミー点鼻粉末剤3mg添付文書より抜粋

グルカゴン製剤の繰り返し投与は余り効果が無いので、グルカゴンを使用しても低血糖症状が継続する場合は必ずブドウ糖を投与し経過に注意しましょう。

バクスミー点鼻粉末剤3mgの副作用

次に副作用についてです。

副作用分類	10%以上	1~10%未満	1%未満	頻度不明
眼		流涙増加眼そう痒症	眼充血
消化器	悪心嘔吐
臨床検査		収縮期血圧上昇拡張期血圧上昇	心拍数増加
精神神経系	頭痛
呼吸器		上気道刺激症状 (鼻部不快感、鼻閉、鼻痛、鼻漏等)
皮膚			そう痒症
その他				味覚異常

副作用で悪心や嘔吐が頻度が高いのは、グルカゴンには胃腸の平滑筋の動きを抑える効果があるからかな？

内視鏡検査で胃腸を精査する場合、前処置としてブスコパン注を使用できない患者（前立腺肥大や緑内障等）の場合にグルカゴン注を使用します。

その他、重大な副作用としてショック・アナフィラキシー（頻度不明）があるので、こちらも注意が必要ですね。

バクスミー点鼻粉末剤3mgの併用注意

併用注意についてもまとめてみました。

併用注意

①β遮断剤ビソプロロールフマル酸塩カルベジロールアテノロール等
臨床症状・措置方法：脈拍数の一時的な増加及び血圧の一時的な上昇が起こることがある。

機序・危険因子：β遮断剤の薬理作用が、グルカゴンのカテコールアミン分泌刺激に伴う臨床症状発現に影響する可能性がある。

②ワルファリンカリウム

臨床症状・措置方法：ワルファリンカリウムの抗凝血作用が増強することがある。

機序・危険因子：機序不明
バクスミー点鼻粉末剤3mg添付文書より抜粋

こちらの薬剤を併用する場合には特に注意が必要そうですね。

バクスミー点鼻粉末剤3mgはどのくらいで効果が出るのか？

こちらについては添付文書及びインタビューフォームに記載がありました。

1型糖尿病及び2型糖尿病患者72例にクロスオーバー法により本剤3mgを経鼻投与又はグルカゴン注射剤1mgを筋肉内投与した。

本剤投与後10分までに血糖値(中央値)は約70mg/dLに達し、最大血糖値(平均値)は140mg/dLを超える値まで上昇した。
バクスミー点鼻粉末剤3mg添付文書より抜粋

以上より、服薬指導する際には効果発現は約10分程度であると説明しましょう。

バクスミー点鼻粉末剤3mgの注意点は？

では最後に注意点についてです。
まずは使用禁忌。

使用禁忌

褐色細胞腫の患者[カテコールアミンの遊離を刺激して、
急激な血圧の上昇を招くおそれがある。]

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

その他、グルカゴンの血糖上昇作用は、主として肝グリコーゲンの分解によるので、飢餓状態、副腎機能低下症、頻発する低血糖、一部糖原病、肝硬変等の場合、血糖上昇効果はほとんど期待できない。また、アルコール性低血糖の場合には、血糖上昇効果はみられないと添付文書に記載があります。

肝硬変の患者さんの場合、グリコーゲンを貯蓄する力がないのでグルカゴンを補ってもあまり意味がありません。

肝硬変の患者さんは夜間に低血糖になる方が多いので、寝る前に捕食をする方がいます。それは低血糖になりやすいから（肝硬変の患者さんは正常な人と比べて2〜3日絶食している場合と同じ状態とも言われています）

バクスミー点鼻粉末剤は患者本人よりは看護師や付き添いのご家族が使用する場合があるので、使用する場合を想定して使い方を十分に説明しておく必要があります。

バクスミー点鼻粉末剤3mgの使い方

こちらに分かりやすく使用方法が記載されたパンフレットがありますので、服薬指導の際にご利用ください。

この薬は如何に素早く使用できるかがポイントだと思うので、しっかりと指導しましょう！

まとめ

グルカゴンを点鼻から使用できるようにしたバクスミー点鼻粉末剤。

糖尿病患者でインスリンを使用している患者で低血糖が出やすいので、
そういった患者さんに処方されるケースが増えそうですね。

後は病院の救急外来で低血糖時の処置としても使用し易いお薬だと思います。

注射剤のグルカゴン製剤と効果は変わらないバクスミー点鼻粉末剤
使用される場合は肝硬変やアルコール性肝障害に注意しましょう！

参考資料