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動物由来医薬品、使えない理由と対処方法について

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新人薬剤師

この前患者さんで宗教上で動物由来医薬品を使用できない患者さんが居たな…
こういう場合ってどの様な医薬品に注意すれば良いのか?

KOUTY

これは難しい問題だね…。
動物由来医薬品は沢山世の中にあるから、代表的な薬剤は押さえておく必要があるかも。
物によっては代替薬があるので、そこは薬剤師として腕の見せ所だね。

近年、病院に勤務していると様々な国の患者さんと接する機会が増えてきました。
そこで問題になるのが「動物由来医薬品」についてです。

日本では余り問題になっていなかったのですが、宗教上で動物由来医薬品を使用できない場合があります。
考えるきっかけとなったのは、僕のあるツイートでした。

このツイートが予想以上の反響があり、皆さんから色々な意見を頂きました。
そこで今回は動物由来医薬品をテーマに記事を書いてみます。

この記事を読んだら分かる事
  • 動物由来医薬品とは?
  • どういう患者に動物由来医薬品を注意すべきか?
  • 動物由来医薬品はどの様な薬品に含まれるのか?
  • 動物由来医薬品が使用できない時の対処方法は?

動物由来医薬品とは?

動物由来医薬品

まずは動物由来医薬品の定義から、
調べてみると厚生労働省が定める正しい表現では「生物由来製品」が正しい表現だそう。

医薬品医療機器等法で「生物由来製品」とは、人その他の生物(植物を除く。)に由来するものを原料又は材料として製造される医薬品、医薬部外品、化粧品又 は医療機器のうち、保健衛生上特別な注意を要するものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものとされています。

具体的には、医薬品としては、輸血に用いられる血液製剤など人由来のものをはじめとして牛や豚等の動物由来のものなど数多くのものがあります。

Pmda独立行政法人医薬品医療機器総合機構HPより抜粋

動物由来医薬品=生物由来製品で良いかと。
この記事では分かりやすく動物由来製品で統一して記事を書いていきます。

この中で問題となるのが牛や豚等の動物由来医薬品です。
宗教によってはこの様な医薬品を宗教上で使用できない場合があります。
ではどの様な宗教が世の中にはあるのでしょうか?

世の中にはどの様な宗教がある?

日本はほとんどの方が仏教を信仰していると思いますが、世界には実に多くの宗教が存在します。
ここではその一例を紹介します。

世界の主な宗教
  • キリスト教(約20億人)
  • イスラム教(約11億9,000万人)
  • ヒンドゥー教(約8億1,000万人)
  • 仏教(約3億6,000万人)
  • シク教(約3,000万人)
  • ユダヤ教(約1,400万人)
  • その他の宗教(約9億1,000万人)
  • 無宗教(約7億7,000万人)

調べてみて分かりましたが、仏教よりヒンドゥー教を信仰している方が多いのですね。
世界的に見ると、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教の割合が高いです。

ではこちらの宗教で動物由来医薬品を使用する際に問題となりそうな事項をまとめました。

キリスト教

【肉類】

菜食を主義とするセブンスデー・アドベンチスト教会の信者は、肉食全般を避ける傾向があります。肉・魚・卵をはじめ、動物の脂肪分でできた油や動物の肉・骨を使ったエキス・出汁にも気をつけましょう。バター、ラード、牛脂、ゼラチン、ブイヨンは使用せず、植物性の油や出汁で代用してください。

【アルコール】

モルモン教ではアルコール類の摂取を禁止しています。飲み物としてのアルコールだけでなく、料理酒、みりんなどのアルコール入りの調味料や、デザートに含まれるリキュール、香りつけに使用するワインなども対象になるため、料理を提供する際にも注意が必要です。

【コーヒー、紅茶、お茶】

カフェイン入り飲料も、モルモン教においては禁忌とされています。コーヒー・紅茶に加えて日本茶・緑茶もカフェインを含むため、食中・食後のドリンクはミネラルウォーターにするなど配慮できるとよいでしょう。

イスラム教

【豚肉】

イスラム教徒が食べられないものとしてもっとも有名な食品です。食品そのものだけでなく、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工食品や、豚のエキス・油にも注意が必要です。ブイヨンやゼラチン、豚の脂であるラードは使用しないでください。ラードの代わりには植物性の油を使うとよいでしょう。

豚肉を見るだけで嫌悪感を抱く人や、豚肉と同じ器具を使って調理された食べものを忌避する人もいるため、調理や配膳にも配慮できるとより安心です。

NGメニュー例:豚肉入りのカレー、豚骨ラーメン、豚エキスを使用した調味料やドレッシングなど

【酒類】

イスラム法では、アルコールの摂取は禁忌とされています。酒はドリンクとしてだけでなく、料理酒やみりん、香りづけ用のワインなど、調味料として使われることもあるため調理の際にも注意しましょう。お菓子やデザートに入っているリキュールも食べられないため、原材料をしっかりと確認してください。

なお、アルコールをイメージさせるものや空間も避ける傾向があります。お酒を飲まない人にはグラスを提供しないようにするなど、不安にさせないための配慮が必要です。

【イスラム法上適切に処理されていない肉】

牛肉や鶏肉、羊肉など、豚肉以外の肉であっても、イスラム法の規定に則した屠殺方法・調理器具・調理場で処理されていない肉はタブーとして避けられます。

海外から輸入した肉には、適切な処理を施したかどうかわかるように「ハラルマーク」をつけることも多いです。ただし、厳格な教徒でない限りは「豚肉でなければ大丈夫」という人も実際には多いため、個別に確認するとよいでしょう。

【一部の魚介類や生魚】

一部の宗派ではウロコのない魚を食べません。うなぎやイカ、タコ、貝類は避けたほうが無難です。また刺身や寿司などの生魚は食べ慣れていないため苦手に感じる人がいます。

ヒンドゥー教

【肉類(牛肉・豚肉)】

牛は神聖な動物として崇拝されているため、タブーとされる食材です。逆に不浄な動物とみなされている豚も食べません。肉食をする人でも、食べられるのは鶏肉と羊肉、ヤギ肉に限られます。

動物の肉や骨を使ったエキスやブイヨン、ゼラチン、牛乳の脂肪であるバター、豚の脂肪であるラード、牛の脂肪であるヘットにも、調理時には注意が必要です。肉食全般を忌避する人がいるときは、植物性の出汁や脂を使うようにしましょう。

【魚介類全般】

魚介類全般も、動物性の食べ物として忌避する人がいます。鰹節を使った出汁も避ける対象になるため、昆布出汁など、野菜や海藻由来の出汁を使うようにすると安心です。

【卵】

卵も動物性の食べ物なので、忌避する場合があります。なかには有精卵は食べられないものの無精卵は食べるという人もいます。

【生もの】

ヒンドゥー教徒には生ものを食べる習慣がありません。基本的に火を通したものを提供するようにしましょう。

【五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)】

厳格なヒンドゥー教徒は、五葷(ごくん)と呼ばれるネギ科の植物も食べません。その他野菜では根菜を食べない人もいるため、ベジタリアンの人には事前に確認しておくとよいでしょう。

ユダヤ教

【豚肉】

コーシェルに属する動物は「ひづめが2つに割れていて、反芻するもの」と規定されています。豚はこれに当てはまらないため、ユダヤ教徒は食べません。豚の肉や骨を利用した出汁やスープ、ソース、エキス、豚の脂肪であるラードなども禁忌の対象となるため、調理の際には注意しましょう。

【血液】

ユダヤ教では血液を口に入れることも禁じています。肉や魚を調理する際には、しっかり血抜きを行った上で焼き加減に気をつける必要があります。たとえばレアステーキのような血の色がみえるメニューは避けてください。

【乳製品と肉の組み合わせ】

「乳製品と肉が同時に胃の中にあってはならない」という決まりもあります。これは聖書の「子山羊を、その母の乳で煮てはならない」という文言から生まれた規定と考えられており、具体的には下記の行為が禁忌とされます。ユダヤ教徒向けの献立やメニューを考えるときには見逃せないポイントです。

 <禁忌>

 ・乳製品と肉が入った料理(シチュー、チーズハンバーグなど)を食べること 
 ・同じ献立のなかに乳製品を使った料理と肉料理が同時に存在すること
 ・乳製品と肉を同じ器具を使って調理すること
 ・肉料理を食べてから時間を空けずに乳製品を食べること(逆もしかり)

【宗教上適切に処理されていない肉】

ユダヤ教にはシェヒターという屠殺に関する規定があります。専門の資格を有する屠殺人によって屠殺された上でさまざまな検査をクリアし、厳格に管理された肉のみが本来はコーシェルとして認められます。

地域によっては適切な処理がなされた肉を手に入れることが困難なので、規定の遵守を徹底する信者のなかには、肉類を食べることそのものを避ける人もいます。

【イカ・タコ・エビ・カニ・牡蠣・貝類全般】

海の生き物では「ヒレとウロコのあるもの」のみがコーシェルとして認められています。イカ・タコ・エビ・カニ・牡蠣、その他貝類全般はタブーであり、口に入れないのが一般的です。

日本食では刺身や寿司、酢の物、イタリアンでもパスタやピザなどにはコーシェルではない食材がしばしば使われるため、メニューを決める際には十分に考慮しましょう。「カニカマ」のように禁忌とされる食材を想起させる食材やメニューもNGです。

【その他】

ウサギ、ラクダ、イノシシ、ハゲワシ、昆虫類、肉食動物(ライオンなど)も食べてはならないと規定されています。日本の食文化においては食べる風習のないものがほとんどですが、ジビエ料理などで特別な食材を使用する際には注意しましょう。

*食べてもよいとされる生き物は「コーシェル」(コーシャ、コーシャー、カシェル、カーシェールなどと呼ばれることもある)、ユダヤ教上適切に処理された食事は「コーシャミール」と呼ばれます。

仏教

【肉類(牛肉など)】

東アジアや中央アジアを中心に広がった大乗仏教では、肉・魚・卵などの動物性の食べ物全般を避ける傾向があります。また中国仏教の観音信仰では牛肉を食べない人がいます。肉を食べてもよいとされる上座部仏教においても、積極的に生き物を殺して僧侶に肉を提供することや肉に関する仕事に就くことはタブーとされています。

肉食が禁忌とされる場合には、肉そのものだけでなく、動物のエキスを使った出汁やスープ、動物性の脂肪でできたバターやラードも食事に使用できません。植物性の出汁や油を使う配慮が必要です。精進料理でも鰹出汁は使わないように注意しましょう。

【五葷(ごくん):ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ】

「五葷」と呼ばれるネギ科の植物も、厳格な信者は禁忌として避ける傾向があります。臭いが強いため気を損ない、修行の妨げになると考えられているからです。

キリスト教は比較的、食に関しては寛容です。
しかし一部の宗派では肉類を避けるとの事。

イスラム教、ヒンドゥー教、ユダヤ教は厳格なルールが存在し戒律は厳しめです。
我々日本で信仰している人が多い仏教は他の宗教と比較すると戒律はやや緩めの印象を受けます。

以上より、多くの宗教は牛や豚を摂取する事が禁じられている場合があるので、
薬剤師として牛や豚由来の医薬品については理解しておく必要がありそうです。

牛由来の医薬品は?

牛由来の医薬品を調べてみました。
*全ての牛由来医薬品を網羅しているわけではありません。

牛由来の医薬品
  • エクラーゼ配合錠(消化酵素製剤)
  • オーネスSP配合Cap,ST配合錠,N配合顆粒(消化酵素製剤)
  • 経口用トロンビン細粒5千単位/経口用トロンビン細粒1万単位(上部消化管用止血剤)
  • ケイラーゼ SA配合顆粒/ACap(総合消化酵素製剤)
  • サニアーゼ配合錠(複合消化酵素製剤)
  • ソルコセリル注(組織呼吸賦活剤)
  • ソルコセリル軟膏(組織修復促進剤)
  • ソルコセリル膣座薬(子宮腟部びらん治療剤)
  • タフマックE配合Cap.顆粒(消化酵素剤)
  • パンクレアチン(消化酵素剤)
  • フェンラーゼ配合Cap(消化酵素製剤)
  • ベリチーム配合顆粒(消化酵素剤)
  • ポリトーゼCap.顆粒(消化酵素製剤)
  • ヨウラーゼ E配合顆粒(高単位総合消化酵素製剤)
  • 乳糖(賦形剤)
  • アクチバシン注(血栓溶解剤(rt -PA 製剤)
  • アクトヒブ(細菌ワクチン類)
  • アビテン/シリンジアビテン(コラーゲン使用吸収性局所止血材)
  • クリアクター静注用40万/クリアクター静注用80万(血栓溶解剤)

豚由来の医薬品は?

豚由来の医薬品を調べてみました。
*全ての豚由来医薬品を網羅しているわけではありません。

豚由来の医薬品
  • エクラーゼ配合錠(消化酵素製剤)
  • オーネスSP配合Cap,ST配合錠,N配合顆粒(消化酵素製剤)
  • 経口用トロンビン細粒5千単位/経口用トロンビン細粒1万単位(上部消化管用止血剤)
  • ケイラーゼ SA配合顆粒/ACap(総合消化酵素製剤)
  • サニアーゼ配合錠(複合消化酵素製剤)
  • タフマックE配合Cap.顆粒(消化酵素剤)
  • パンクレアチン(消化酵素剤)
  • フェンラーゼ配合Cap(消化酵素製剤)
  • ベリチーム配合顆粒(消化酵素剤)
  • ポリトーゼCap.顆粒(消化酵素製剤)
  • ヨウラーゼ E配合顆粒(高単位総合消化酵素製剤)
  • リパクレオン顆粒/カプセル(膵消化酵素補充剤)
  • ヘパリンNa注/低分子ヘパリン(ダルテパリン.フラグミン)(血液凝固阻止剤)
  • ウロナーゼ静注用6万単位(線維素溶解酵素剤)
  • オルガラン静注1250単位(血液凝固阻止剤)
  • クリアクター静注用40万/クリアクター静注用80万(血栓溶解剤)
  • クレキサン皮下注キット(血液凝固阻止剤)

動物由来医薬品が使用できない場合の対応は?

では動物由来医薬品を使用できない場合はどうすれば良いのか?
代替薬がある場合は代替薬をDrに提案します。

例えばイスラム教徒で深部静脈血栓がありクレキサン皮下注キットを使用したい場合は、
同効薬のアリクストラ皮下注を使用する等。

注意しなければいけないのがカプセル剤のゼラチンが牛由来である場合があるという事。
セルベックスカプセルのゼラチンは牛由来ゼラチンです。
この場合はセルベックス細粒に変更する等対応が必要。

最近のカプセルは植物由来が多いので、動物由来のゼラチンを使用する頻度は減っています。
添付文書では「ゼラチン」としか記載されていない場合もあるので、気になる医薬品については各メーカーの DIに確認すると良いでしょう。

まとめ

日本では余り感じる事の無い宗教による医療の選択。
海外に目を向けると、この様な場面に出会う機会は多いと思います。

私たち薬剤師も各々の宗教のタブーを理解し、個人を尊重すると共に、ベストな医療を提案する未来も近いのかも知れません。

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KOUTYNST専門療法士
病院薬剤師の端くれ。 現在消化器科病棟、ICU病棟担当。 NST専門療法士(栄養サポートチーム)の薬剤師として活躍してます。 まだまだ修行中の薬剤師ですので、もし間違えた事を記載しているのであればご指摘頂けたら幸いです。 TwitterとInstagramも随時更新中なので応援お願いいたしますー!(コメント頂けるとモチベーション上がります笑)